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オピニオン 2016.10.19

問われる医師のゲノムリテラシー

Profile
理化学研究所 統合生命医科学研究センター 副センター長
基盤技術開発グループ グループリーダー
久保 充明 先生

1988年九州大学医学部卒、同年同大第二内科に入局。松山赤十字病院腎センターなどを経て、1995年より疫学研究で有名な久山町研究に従事。2003年東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター客員研究員、2006年理化学研究所ゲノム医科学研究センター(現:統合生命医科学研究センター)・グループディレクター、現在は同センター副センター長を務める。

(本記事は2015年5月にm3.comに掲載された記事を転記したものです)

ゲノム医療の有効性をエビデンスとして示すことが、我々の使命

ゲノム医療が実臨床の現場で受け入れられるためには今後、何が必要ですか?

ゲノム情報を取り入れた治療法や予防法を開発するだけではだめで、そうした医療行為によって、本当に治療効果があるかどうかのエビデンスを構築することが大切だと考えています。

我々のプログラムの研究のように、個人のゲノム情報と臨床情報、さらに追跡情報が結びついたデータベースを解析することで、さまざまな疾患とゲノムとの関係性が明らかになり、それにもとづく治療法も開発されていくはずです。しかし、そのような治療法が開発されても、特に国民皆保険制度をもつ日本においては、すぐに多くの臨床現場で活用されことにはつながらないと考えます。つまり、治療薬の開発などと同様に、事前に調べたゲノム情報によって治療群を割り付け、その群に対して同一の治療を行い、臨床転帰がどうなるかを検証する必要があります。

ゲノム情報に基づく治療選択の有用性をエビデンスとして示す必要があるということですね。

そのとおりです。エビデンスが確立されることで、国民健康保険内でのゲノム医療実施にも道筋がみえてきます。また、多くの医師にとってもゲノム解析結果をどう解釈し治療につなげていくのか、つまり、“ゲノム情報の扱い方”が明確になり、一般的な臨床検査の結果と同じように扱われるようになると考えます。つまり、治療選択の有用性についてのエビデンスは、ゲノム情報を活用したオーダーメイド医療が日本で実現するかどうかの重要なファクターであり、それを示していくことが今後の我々のプログラムの使命です。先に述べた国立病院機構や日本臨床腫瘍グループ(JCOG)などが実施する国内の他のプロジェクトとの連携による、いわば、“ゲノム医療の治験”がエビデンスを確立していくために重要なのです。

問われる医師のゲノムリテラシー

DTC遺伝子検査の結果を、正しく患者さんに伝えられるのか?

Sub 1

それでは、ゲノム医療の時代に必要な医師のゲノムについての考え方とはどのようなものだとお考えでしょうか?

ゲノム医療に対する考え方は二極化しています。ゲノム情報が注目され始めた当初は、ゲノムに対する期待が高く、個人をかたちづくる決定的な因子だと考えている医師も多くいました。現在でもゲノム情報を絶対的なものとして捉えている医師がいます。その一方で、ゲノム研究が進み、ゲノム情報は絶対的なものだけではなく、ゲノムのバリエーションのうち多くのものについてはリスクが多少変わる程度だということがわかってきました。そのため、医療には全く使えないと思い込んでいる医師もいます。どちらも正しい認識ではなく、ゲノム情報はあくまで確率的なものであり、一般的な疾患の古典的なリスクと同じように考える必要があります。

単一遺伝子疾患を除いたほぼすべての疾患において、疾患が発症するかどうかは確率です。その確率に影響を与えるのがゲノム情報ですから、ゲノム情報に基づく診断や治療、予防法についても、患者さんによってプラスに働くこともあれば、そうならないこともあります。あくまで確率として理解することが重要です。

患者さんの捉え方についてはどうでしょうか?

確率で表現することが難しいのは患者さんへの説明です。患者さんには、白黒で説明しないと理解してもらうことが難しい場合があります。一般的な疾患の診断・治療において、医師は治療方針を断定的に説明する傾向があります。しかし、説明が断定的であっても、そこには確率的な意味合いが含まれています。医師は患者さんに対して100%病気が治ると言いませんが、「こういう病気で、こういう風に治療するのがおそらくベストですよ」と説明すると、患者さんはその治療で病気が治ると断定的に受け止めてしまいがちです。そのため、ゲノム情報を実臨床に導入する際には、断定的に捉えがちな患者さんに対して、医師がどのようにリスク(確率)を説明するかが重要なポイントになります。

医師も患者さんもリスクという考えをきちんともつことが大事ですね。

そのとおりです。ゲノム情報も他の生活習慣病などのリスク因子と同じように、確率を示す情報として扱われる考え方が浸透することを期待しています。そのためには、医師、患者さんともにゲノム医療に対するリテラシー、知識レベルをいかに高めていくかが課題になります。

現在ではDTCの遺伝子検査も実施されるようになってきました。患者さんがクリニックで診察を受ける際に、「先生、実は遺伝子検査でこんな結果が出たのですが大丈夫ですか?」と相談するような事例も増えてくるのではないでしょうか。まずは、そうした患者さんにゲノム情報の捉え方についてきちんと説明できるようになっておくことが、日本でゲノム医療が受け入れられる素地を醸成することにもつながるのではないでしょうか。

ありがとうございました。

Sub 2

前編「20万人のデータ、しかしゲノム情報だけでは医療は進展しない」はこちらから

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