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イノベーション 2016.08.23

【後編】メイヨークリニックのゲノム医療、その実態に迫る

全米で注目を集める「メイヨークリニック」が提供するゲノム医療とは何か。前編ではメイヨークリニックの概要と、ゲノム医療の中核をなす「個別化医療」の考え方を紹介した。

後編ではメイヨークリニックによるゲノム医療の具体的な取り組みを、「個別化医療」と「ファーマコゲノミクス」という観点から紹介する。

メイヨークリニックの取り組み(1) 個別化医療

メイヨークリニックの「個別化医療センター」では主に2つのサービスを提供している。

1)進行がんの治療

がんの多くは、遺伝子の異常がもとになっている。細胞が異常に増える状態を「がん化」と呼ぶ。本来はがん化を防ぐ遺伝子があるのだが、この遺伝子に生まれながらに異常があると、がん化を抑えることができないために、がんになる、と言われている。

治療法には、手術、放射線治療、化学療法などがある。症状がひどくなって「進行がん」と呼ばれるステージまで進んでしまうと、手術ができなかったり、副作用が強くでるおそれがあって十分な量の放射線を当てることができないなど、治療法が限られてしまう。

そこで、メイヨークリニックでは、これまでの方法では治療できない進行がんの患者さんに新しい治療法を提案している。「全エクソームDNA配列検査※」と呼ばれる検査をして、がん細胞と健康な細胞のゲノム情報を調べ、遺伝子の異常を見つける。異常がある遺伝子の種類によって、それぞれにふさわしい治療法を選んでいくのだ。

「ひとつでどれにでも効く」標準的な治療が効かず、他の治療オプションが示せない患者さんに対して、ゲノムの力を用いることで「個々人にあった」解決の可能性を素早く見つけ出す、こうした世界観はすでに実践されているのだ。

※DNAは、設計図として実際に使われる場所と、使われない場所に分けることができる。前者をエクソンと呼んでいる。遺伝病やがんの多くは、エクソンの特定の部分が変化することによって起こる。しかし、特定の場所だけを指定して調べることが難しいため、全てのエクソンのDNA配列を調べる方法がとられている。これを全エクソームDNA配列検査という。

2)希少で診断が難しい病気の治療

希少な病気は、病気にかかったことがある患者さんの数も少ないため、すぐに正しい診断をするのが難しかったり、これといった治療法が知られていないことが多い。患者さんは、自分の病気が何であるのか、どうしたら治るのか、答えを求めて複数の病院を訪ね歩くこともあり、「診断を求める放浪」(diagnostic odysseys)などと呼ばれている。

こうした患者さんにもゲノムは大きな可能性を秘めている。一部の希少な病気は、やはり遺伝子の違いによることが分かっている。患者さんの中には、すでに別の病院で何らかの遺伝子検査をうけたことがある人もいるが、はっきりしたことがわかっていないケースも多い。

メイヨークリニックでは、このような患者さんに全エクソームDNA配列検査を行って、遺伝子レベルで病気の原因を明らかにする。正しい病名をつきとめ、その病気に適した治療をしていくのだ。

Sub 1

メイヨークリニックの取り組み(2)ファーマコゲノミクス

ゲノミクス研究にも少し触れておきたい。まだサービス化はされていないものの、いずれ患者さんの治療に役立つことが期待される研究だ。

メイヨークリニックが取り組むゲノミクス研究の一つが「ファーマコゲノミクス」と呼ばれる分野だ。ヒトの遺伝情報と、薬の効き方や副作用との関係を調べて、患者さん一人ひとりにあった薬の使い分けを見つけるための研究である。

たとえば、乳がんでは「BEAUTYプロジェクト」を進めている。特別なマウスを使って、がん細胞と健康な細胞の遺伝子の違いや、がん細胞の遺伝子が化学療法の前と後でどのように変化するかなどを調べている。将来的には、患者さんのゲノム情報の違いに合わせたオーダーメイドの化学療法を目指している。

「がん細胞のリプログラム」の発見も大きな注目を集めている。フロリダ分院がん生物学科長Panos Anastasiadis氏らは、がん化した細胞を元の健康な細胞に戻すこと(=リプログラム)が可能となる遺伝子情報を見つけた。実験が成功したのは、急性の乳がん、肺がん、膀胱がんなど、一部のがん細胞であるが、研究チームでは「つらい化学療法や手術をしなくても、がんを治療できる日が来るかもしれない」と期待している。

未来のゲノム医療

メイヨークリニックのターゲットは患者さんだけではない。健康な人にもアプローチを考えている。

「予測ゲノミクスサービス」(Predictive Genomics Service)は、治療の効き方を予測したり、将来的にかかりやすい病気をあらかじめ知ることで、人生設計や、いつ頃に何人くらいの子供を持ちたいかといった家族計画にも役立てていこう、というものだ。すでに多くの患者さんがこうしたサービスを受けている。

このように、つねに医療の最先端を走りつづけるメイヨークリニック。これまでも、これからも目が離せない存在だ。

日本でもゲノム情報のマーケットは広がりつつある。専門的には「DTC(Direct to Consumer)遺伝学的検査」と呼ばれるように、病院に行かなくても、自分自身の遺伝情報や、病気のかかりやすさなどを調べることができるツールも登場している。

ただし、ゲノムは万能ではない。

メイヨークリニック個別化医療センター、アソシエイトディレクターであるAlexander S. Parker氏はm3.comのインタビューに対して、「利用者や患者さんには、実現できることとできないことをしっかり説明し、十分に理解してもらった上で、大げさな期待を抱かせることなく、その人自身に適した予防法を知らせたり、効果がある治療を受けられるようにすることが、何よりも求められている。」と語っている。

ゲノム医療の最先端を具現化しているメイヨークリニックに、今後も注視していきたい。

前編「オバマ大統領やAppleも注目、世界最先端のゲノム医療とは」はこちらから

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