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イノベーション 2016.05.25

【後編】若手起業家鼎談―どう変わる?ゲノムがもたらすイノベーション

Profile honkura
クオンタムバイオシステムズ株式会社 代表取締役社長 兼 最高経営責任者(CEO)
本蔵俊彦氏

1974年東京生まれ。東京大学大学院修了後ヒトゲノム解析等の研究に従事。バイオセクターの証券アナリストを経て、05年にマッキンゼーに入社、製薬会社を中心とした戦略立案に従事。11年に産業革新機構に移り、ディレクターとしてライフサイエンス領域を担当した後、2013年に同社を設立。現在は日米双方を開発拠点とし、革新的DNAシーケンサーの開発に挑む。米国コロンビア大学にてMBA取得。

Profile ishikura
株式会社日本医療機器開発機構 取締役 CBO
石倉大樹氏

1982年福岡県生まれ。九州大学農学部在学時に、医学部発の大学発創薬ベンチャー・アキュメンバイオファーマ創業に参画。日本で初めて大学発の技術を事業化した会社として上市(欧州)に成功。日本と米フィラデルフィアで資金調達や経営企画に従事、さらにエムスリーで医療分野の新規サービス開発に従事した後、米スタンフォード大学経営大学院留学。現P5,Inc.取締役。平成27年度東京大学大学院薬学系研究科非常勤講師。

Profile uematsu
G-TAC株式会社 代表取締役社長
植松正太郎氏

1984年栃木県生まれ。社内アントレプレナー。学習院大学卒業後、SBIホールディングスに入社。2C・2B向け営業、店舗開発、経営企画、マーケティング、新規事業、人事など幅広いプロジェクトに従事。2011年にエムスリー入社。製薬企業向けのマーケティング支援業務において、Web講演会事業やMR向けの営業支援アプリ開発など、新規事業を複数立ち上げ。2015年8月にゲノムを活用した医療業界の構造変革を目指しG-TAC社を設立、20,000人の医師ネットワークを背景としたゲノム医療のプラットフォームを運営している。

次世代シーケンサーの登場および医療技術の進歩により、より高速かつ低コストのゲノム解読が可能となった今、ゲノム情報は私たちの生活に身近なものになりつつある。その可能性は、医療だけにとどまらず、さまざまな分野での応用が期待される。では、日本の医療、また私たちの生活は今後どのように変わり得るのだろうか―。3人の若き実業家が集い、ゲノム研究の応用の今とこれからを考察する。

100ドルゲノムの時代はもう目の前

Profile uematsu
個人の遺伝子配列の解読にかかるコストは、2003年のヒトゲノム計画では30億ドルであったのが、2007年のワトソン博士のゲノム解読では100万ドルになり、いまや1,000ドル(約10万円)の時代になりましたが…
Profile honkura
価格については、もうそろそろ打ち止めなのではないかとも言われていましたが、もっともっと下がります。100ドル以下になる日が、本当にすぐ来ますよ!100万円が10万円になった時のインパクトよりも、10万円が1万円になると、そこにお金を出せると思う人がすごく増えてくるので、そうなったときに、世の中はすごく大きく変わると思っています。
Sub 1

ゲノムを知る権利、知らない権利

Profile uematsu
話は変わりますが、実はG-TACでは今、アルツハイマー型認知症遺伝子APOE(アポイー)検査みたいなものを取り扱おうとしているのですが、現段階では、アルツハイマーは根治できない疾患です。この検査は、兆候を発見し、生活習慣の改善や早期治療を徹底することを目的としたものなのですが、社内で取り扱うかどうかを議論した際、男性は全員が「知りたい」と答えたのに対し、女性は皆が「知りたくない」と答えました。このあたりのゲノムを知る権利とか、知らないところを守る、ということもかなり重要かと思うのですが、いかがですか?
Profile honkura
昔はがんを告知するかどうかというのが議論になりましたが、いまやがんも告知しないとまずいですよね。大局的に見れば、そういう情報を早く知ったうえで意思決定していく、つまりその情報を活用できるのであれば、知った方のメリットの方が大きくなっていくのではないかな、という気がしています。自分の時間をどう使うかは自分で決めるわけですし…。もちろん、そのうえで、知らない権利というのも大事だと思います。
Profile ishikura
たしかにアルツハイマーの場合は、治療がまだ確立していないという難しさはありますよね…。一方で、がんのような疾患はかなり治療も細分化されているため、治験でもよいので情報が欲しいという人がいますが、現場の先生方はそういった情報を提供したがらない、という状況もあります。実は、私がいま参画しているエムスリーとソニーのジョイントベンチャーによるP5という会社があるのですが、今月から、患者さんの腫瘍サンプルのゲノムを解読して、どの薬が患者さんの治療に役立つ可能性があるか、最適な国内外の治験情報を提案するサービスを開始する予定です(プレスリリースはこちら)。これはまさに、現場の国内の先生方のニーズに基づいて提案されたものなのですが、もしかしたら、そうした現場のニーズは、日米で違うところはあるかもしれないですね。
Profile honkura
私は最近、日米で少しゲノム情報に対する考え方が違うと思っているところがあります。日本だとゲノム情報は個人情報で、どうやったら他人に見られないようにするか、という方向に話が行きがちですが、米国ではゲノム情報は守るものではなくて、活用するもの、という考えがあります。自分のゲノム情報を提供することで、将来、自分の子供や子孫がその情報の恩恵を得られるのであれば、その情報がどこかに漏れてしまうリスクよりもベネフィットの方が高いのではないか、と・・・。私はそういう世界の方がすごく健全であり、より意味のある人生が送れるのではないかと思っています。
Profile uematsu
実は、G-TACの標語が「ゲノムを通じて、自らを知る・創る」というものなのですが、知りたい人に対して知る権利を与えるべきですし、その結果で選択肢が増え、今までなかった選択肢によってまた新しい未来が作られていく、というところは担保したいと思ってやっています。
Sub 2

米国医療から学ぶべきことは?

Profile uematsu
お二人とも米国での生活も長いと思うのですが、日米の医療サービスの違いなどについて感じられたことはありますか?
Profile ishikura
米国は皆保険ではないので、自分の保険も自分で選ばなくてはいけないですし、保険ごとに行ける病院も違います。就職のときも、会社側が用意している保険プランが重要だったりします。とくに歯医者なんかは、外国人の学生の場合は完全に保険がカバーされません。
Profile honkura
私もMBAの時、歯医者は大変でしたよ!
Profile ishikura
私も現地で歯が痛くなった時、20万円ほど払いましたよ。フライトでその時だけ単発で日本に帰った方が安いのではないかと思ったくらい(笑)
Profile ishikura
米国では、価格が基本的に統一されていないため、同じ医療サービスでも医療機関ごとに治療費が大きく異なります。“医療サービスの食べログ”ができますよ、何よりも、お金を持っている人の方がよい医療を受けられるという資本主義です。米国の経験から感じたことは、日本ほど質の高い医療が、画一的に、しかも低価格で受けられる国はない!ということです。
Profile honkura
私も、日本の国民皆保険制度は素晴らしいと思います。ただ、このままだと破たんするのは目に見えている。やはり‘強弱’をつけるべき時期が来ているのではないでしょうか。技術はどんどん進歩していくわけで、そのなかで、全員が同じように受けられる部分は最低限の部分であり、あとは民間あるいは公的保険でカバーされる部分というような分け方をする。価格についても然りです。米国はすべて民間保険なため、コストベネフィットがすごく厳しいという意味では、米国から学べる部分はあると思っています。食生活の管理やデジタルヘルスなど健康管理についても、米国では意味のあるものであれば採用されるスピードが速いので、その結果をうまく使って、日本のとくに医療費の削減をする、という方向になればよいのではないかな、と思います。
Profile ishikura
たしかに今の日本では、質の高い医療に皆が画一的にアクセスできる一方で、例えば明らかに自己管理が出来ていなかった人は医療費を増やしてしまうところに貢献しているわけで…今の日本の医療制度はそれを助長してしまうシステムではあったと思うのです。健康ってアセット、つまりお金と一緒で自分の資産ですよね。自分の家族も含めて、努力と時間、お金を投資してそれを維持する、膨らますと努力している人にこそ、よりフェアであるような世界というのは、あるべき姿かな、とも思います。
Sub 3

正しく医療サービスを選べるような情報提供を

Profile uematsu
では、最後によろしければ、G-TACに期待することについて、メッセージをいただけないでしょうか。
Profile ishikura
ゲノム情報はその解釈も含めて、やはり新しい技術です。米国では医師以外の遺伝カウンセラーが多数いる状況ではありますが、現在日本で現実的に対応できるのはやはり医師です。そういう意味で、学会レベルではなく、民間レベルでゲノム情報を医療に導入していくためのファシリテーターみたいなのをどんどん作っていきましょう、という動きをやっているのはG-TACだけだと思います。医療としても、ビジネスとしてもそこが価値の高いところになるのではないかと思います。
Profile honkura
これからゲノム情報を活用した医療とか健康管理はどんどん立ち上がってくると思います。私はやはり、主役は患者さんや消費者だと思っているので、そういう人たちが正しく医療やサービスを選べるような情報を提供していく、というのは、とても価値があることだと思います。逆にそこが少しでもおかしな方向に行ってしまうと、本来であれば大いに使われるべきものさえも使われなくなってしまうので、G-TACは大きな役割を担っていると思います。医療費削減についても、情報をうまく活用するというのがキーになると思うので、そういう分野にも携わっていらっしゃいますし、ぜひそうした分野でのリーダーになって欲しいと思います。
Profile uematsu
貴重なコメント、今日はありがとうございました!

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